杉浦 剛の記事

感情を文字に、言葉に表情を。

科捜研じゃない男

周りから見れば冷静沈着

深入りされれば冷酷非道

 

目立たずおとなしく、常に落ち着き何が起きても動じない。そして必要な言語しか発しない。

癖を出さない事、それが重要。

 

 

無の境地の自分。

好きにはなれないけど、今の自分よりはマシかな。やる事をやれば必要なカネは得られる。それを体現できる。お前は人間じゃないと言われても笑った表情だけで大抵の事は穏便に済む。

 

 

普通でいたらできない事ができるようになってしまう。

関係者以外誰にも見られた事は無い。

無慈悲だとかサイコパスだとか言われて、お前には人の心があるのかと問われてもありますよと笑う自分。鏡に写った自分は自分だけど、人間的なものを感じない表情。微笑む人形だから。

 

やりたくてやるんじゃない。できないと言って困っているからやるだけ。

一刻も早い方が良いんでしょう?急いでるのに目を逸らしたままそこに立ってて良いの?早くなんとかしないといけないんでしょう?

できない?なんで?恐いから?どこが?

じゃあ、手伝いましょうか?それとも俺一人でやりましょうか?最終的にどうなるのが一番ですか?見られるとまずいですか?だったら要望だけ言って早くここから出て行ってくれませんか?そんな顔してたらできないでしょう?作業の邪魔なんだよ。

終わり次第すぐに連絡するので確認だけお願いできますか?いくらとは言いません。そこは、お任せします。

 

 

普通を生きていれば割に合わないという嘆きばかり聞かされる。

割に合う事をしてみればそんな嘆き二度と言えなくなるよ。とても平和な愚痴でしかない事を知るだろう。

 

 

 

夏は終わった。

これから寒さが増してくる。

今夜俺は窓を開けて扇風機ガンガン回しながら寝るんだ。

 

 

 

眠る前に、急に思い出したオカルト話でも。

 

どっかで仕事した時、同じ配属先の人間に、初対面なのにお前、5人くらい殺してる顔してるなって言われた事がある。

いやいや、そんな5人も殺した事なんて無いですよ〜と笑った。相手が笑わなかったから、俺も真顔で目を睨んだ。そしたら目を逸し黙った。おいおい、目ん玉くり抜かれたいのか?

 

 

後にトイレで居合わせた別の人間が言った。

お前さんが来るほんの1、2ヶ月前に寮内で死亡事故があったんだぞって。

 

 

そんなん、案内された日からわかってたよ。

 

206号室だった自分の部屋に向かう途中の部屋の人間が死んだんじゃないですか?

冗談ぽく言ったつもりだったけど、ちょっとピンポイント過ぎたようで、苦笑いされた。

浴室にある浴槽で溺死したって事になってるみたいだけど、ちょっとそれは…と、笑ってしまった。

 

幸い身寄りはいない、会社は大々的にしたくない、寮で暮らしてる人間を不安にさせたくない。だから検死もせず不慮の事故で済ませて平穏な毎日に戻そうとしてる。

 

それじゃあ、なんであの部屋を窓全開のまま開かずの間にして片付けない?

その時のタオルの生乾き臭から何から全部漏れてるけど?

なんなら、泡吹いて白目剥いてるけど?

 

もう一度聞き取りと私物検査、しっかり警察の捜査入れた方が良いんじゃないですか?

被せ気味にもう終わった事。誰も思い出したくない事なんだ。そんな必要は無い。

だって。

 

ある日、懇親会のような会合の席に、自分と似た雰囲気の女性社員が一人で座っていた。

思い切って声をかけに行った。ナンパじゃないけど傍から見たらナンパ。

目の前まで行ってしゃがみ、一言。

 

俺が来る前の死亡事故の事、どう思いますか?

 

ガタガタ震え出してその場にうずくまってしまった。

周りに変な勘違いさせたかな。

 

あれ、私は事故だってどうしても思えないんです。

 

そう真顔で言ったもんだから、俺はついつい笑った。

 

浴室で溺死って聞いたんですけど、それって事実なんですか?

 

女性は首を横に振り、わからないと答えた。

そうか、男子と女子で浴室は違うんだったな。

 

知りたい、ですか?

思わず言ってしまったが、女性は強く頷いた。

 

わかりました。でも今日はやめときましょう。変な誤解されるんで。明日、仕事終わってみんないなくなった食堂で話しますよ。もしそれで宜しければ。

 

 

そう言って迎えた翌日、数名残っている食堂の奥の席にポツンと一人、もう座っていた。

 

昨日は突然すみませんでした。

と、隣に座らせてもらって誰もいなくなるのを待った。

何も話さないでいるのも変な空気だったので、お互いの名前、年齢や部署など無難な会話をした。そしたらだいぶ歳下の女性だった。話して大丈夫かな?と一瞬思った。

 

誰も居なくなり、切り出した。

俺は早く眠るもんだから。

 

 

犯人は、わかりますか?

首を横に振った。

 

溺死、そう思いますか?

首を横に振った。

 

これは話が早い。

細かい事を言わなくても察すると判断した。

 

 

犯人は、死んだ人間の真下の部屋の人間ですよ。

 

そう伝えると、また震え出した。

俺は笑い人形になって、続けた。

 

死に至るダメージは寮の自室。そして犯人に引きずられながら運ばれて放られた先が予め貯水されていた浴槽。そこで死んだ。

 

会社もそれを少なからず疑っているから死んだ人間の部屋をあえて放置してる。

もし同じ事が同じ部屋で起これば偶然では済まされないからね。

 

実際の死因は薬物中毒。貯水で呼吸をした為に体内に水、溺死と判断。薬物は溶液を気化させた神経麻酔の劇薬。毒ガスって言えばわかりやすいか。

 

以上、推理ドラマの真似事みたいな話でしょう?

そう言ったら、相手は笑った。

気を付けて下さいねと言われたけど、あいにく離れてるんで、安心して寝ますよと、お開きになった。

 

 

今も新入りにお前、5人くらい殺してる顔してるなとか言ってるのかな。

なんで5人?色んなパターン試したくてしょうがないんだろうな。目標はあと4人か?それとももう他で済ませてあと1人か?

どっちでもいいけど、片付ける側の事も少しは考えてからやりな。